「読書会ノート」 『サン・テグジュペリの言葉』

『サン テグジュペリの言葉』

鈴木元子

 

『星の王子さま』を読んで十二年後『サン テグジュペリの言葉』に心を傾けた。

全作品の中から掬い出された「珠玉」の一巻である。

1900年フランスに生れ、第二次大戦の末期に仏軍の偵察機で出撃して、四十四年の生涯を閉じた。彼の任務は飛行士、然し彼の天分は文筆であり、その心は幼時から、キリスト教の信仰によって培われた。

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「真の人間とは讃歌や詩や祈りを通して美しい者となり、内面において築きあげられた者のみである。その人間のまなざしは、明るくおまえの上に注がれる。彼はあるものの宿る人間だからである。」(神性を宿した人)

「犠牲とは無償の施与を交換に何ものをも要求しないもの。あなたを築き上げるものはあなたが受けるものではなく、あなたが与えるものです。共同体にあなたが与えるものは、共同体を築き上げます。そして共同体はあなた自身の実体を豊かなものにしてくれる。」

「偉大さはまずもって、しかも常に、自己の外に置かれた目的から生まれる。ひとが人間を自己自身のなかに閉じこめ、その人間が自己に奉仕するや、たちまちその人間は貧しくなる。」

「愛するとは、たがいに見つめ合うことではなく、ともに同じ方向を見ることだ。」

「幸福の条件は幸福そのものの探求ではない。おまえが創造したとき、幸福はその報償として与えられるのだ。幸福の条件は戦いであり、拘束であり、忍耐である。」

「たとえどんなに目立たないものであろうと、ぼくたちが己の役割を自負することができたとき、その時はじめてぼくたちは平和のうちに生き、平和のうちに死ぬことができるだろう。生に一つの意味を与えるものは、死にも一つの意味を与えるからである。」

「おまえに教えよう。人間はおのれの充実を探し求めているのであって、幸福を探し求めているのではない。」

「道徳的拘束は我々はそれを呼び求めているし、強靭な人間を捏ねあげるためには厳しい掟が必要だということをよく知っている。そして神は、われわれがそれを行う際の唯一の権威となる。」

「神は人間に神性を与えるものだ。」

「神とは事物を結び合わせる聖なる結び目である。」

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サン テグジュペリの生涯を通してその心に湧き上った地上発「箴言」の源泉は、彼の接した世俗の人間関係による苦悩の経験と、若い日に飛行機の中継基地に勤務した一年余、サハラ砂漠の砂嵐と夜空の星を仰ぎ、亨けた啓示とであっただろう。『星の王子さま』が今日なおも全世界で毎年百万部売られているという不思議は、下界に住む息苦しさに喘ぐ人々の求める酸素吸入なのかもしれない。彼は神と人間との結び目であり、わたしたちもその結び目につらなりたい。

(2003年11月号)