「読書会ノート」 ヘミングウェー 『キリマンジャロの雪』

ヘミングウェー  『キリマンジャロの雪』
『フランシスマコゥマーの短い幸福な生涯』

鈴木 元子

 
1. キリマンジャロの雪
狩猟好きのハリーが妻同伴でアフリカに来たが今回は御難で、叢みの枝に足を突き刺し、車も故障して救援を待つばかり、化膿した傷は壊疽を起し、ハリーはしきりと夢を見る。醒めると日頃心の底に鬱積した不本意、つまり妻の財力によって生活の贅沢が購われていることの屈辱感と自己嫌悪が、この期に及んで堰を切り、優しい妻に当たっている。

ハリーの夢は皆過ぎし日の思い出、それらはいつか作品にしようと温存していたものばかりだ。――これも皆無駄になってしまうんだなーハリーはそして形に見えない死神の近づきを感じた。助けを求めても声が出ず、遂に息ができなくなった。

朝が来た。上空から小型機が現れて友人が援けに来た。機には彼だけ乗せられて、砂漠を見下ろし嵐に揺られやっと抜け出して友が振りむくと、にやっとして指した前方の視野一杯拡がって聳え、陽の光を浴びてまばゆいばかりに白く輝いているのはキリマンジャロの山頂、そして彼は、自分の目的地はあそこだな、と覚った。

丁度その時彼の妻は、ハイエナの異様な鳴き声に目を覚まして、近寄れば、ベッドのハリーは息絶えていた。

 
2. フランシスマコゥマーの短い幸福な生涯
所は東アフリカ。狩猟の一行が今引き上げて来た。ライオンの大物を仕留めたという。けれどもその雰囲気は何かカラリとしないものがある。一行はアメリカ人の夫妻、英国人狩猟ガイド、それに現地人の鉄砲持など。

狩猟の掟は、第一に獲物と向き合うのはその主人であって、ガイドは如何に有能でも、側面からの援護にとどまる。主人マコゥマーは初めてライオンに立ち向かって震えだし、兎の様に叢にとび込んだ。一発で仕留めて危機を救ったのは、ガイドのウィルソンである。妻マーゴットは夫を軽蔑した。意気地無し、腰抜け男!そしてあからさまにウィルソンに靡く気持を態度に示した。

実はその前夜、マコゥマーは一晩中闇の中にライオンの咆え声を聞いた。それは年寄りらしく息切れし、繰返し聞くうちに恐怖とも憐憫ともつかぬ気持におそわれて、明日仕留める気魄を削がれていたのだ。

マコゥマーが深夜、浅い眠りから覚めると、妻の寝台は空であった。次の日は水牛狩の予定だ。名誉挽回はこの時だ―生まれ変った様に彼は三頭の水牛を次々と射止めた。繁みに倒れたと見えた一頭に近づくと、矢庭に起き上がって突進して来た。マコゥマーはその前に仁王立ちになって鼻面を狙った。水牛があわや彼を突き刺そうとした瞬間、車の中から妻が水牛を射ち、弾が夫の後頭部を射ち抜いた。ウィルソンの顔に悲しみがサッと過った。しかし「いっそ毒でも盛った方が」と泣きくずれるマーゴットに冷たく言って、思慮深く事後の処理をした。