説教 「天使たちの歌声」  大柴 譲治牧師

ルカによる福音書 2: 1-20

はじめに

私たちの父なる神と主イエス・キリストから、恵みと平安とがあなたがたにあるように。

 ある夜の物語

クリスマスは闇の一番深い所に始まる物語です。

マタイ福音書2章には、輝く星に導かれて、東の方から占星術の博士たちがベツレヘムにお生まれになった幼子イエスのもとにやってきたことが記されています。星に導かれるというのは博士たちの旅が夜の旅であったと言うことです。昼間は星は見えないのです。また、雲りや雨の日も見えない。その旅は、星の輝きを確認しながらの、暗闇の中を見えにくい足元を探りながらの手探りの旅であったと思われます。

先ほど読んでいただいたルカ福音書2章では、やはり夜、野宿をしていた羊飼いたちに天使が現れて「今日ダビデの町で、あなたがたのために救い主がお生まれになった」と告げます。すると、天の大軍(天使または聖徒)が加わり、「いと高きところには栄光、神にあれ、地には平和、御心に適う人にあれ」と天から喜びと讃美の歌声が響くのです。それは「天空のハーモニー」であり、「天使たちの歌声」でありました。天空を「今日、救い主がお生まれになった」という喜びの歌声が満たすのです。私たちはクリスマスの讃美歌を歌い、アンサンブルのすばらしい楽の音の中に身を浸していますが、これは天使たちの歌声に私たちの歌声を重ね合わせるということであり、その歌声の中に身を置かせていただいているのかもしれません。クリスマスは天も地もそのような楽の音に満ちています。

しかしこのクリスマスの天使の歌声は、耳を澄まさなければ聞こえてこないようなものであり、星の輝きは闇に目を凝らさなければ見えてこない、そのようなものであるようです。

 闇の中でこそ見えてくるもの

『アポロ13』という映画がありました。月面着陸のミッションをもって打ち上げられたアポロ13号が途中で事故に遭遇し、あらゆる困難をかいくぐって、地上とのチームワークの中で、奇跡的に帰還する有様を扱った映画でした。

その中に、アポロ13号のジム・ラヴェル船長がテレビのインタビューに答える場面がありました。今までに危機的な場面に遭遇したことがあるかという問いに答えて、ラヴェル船長は次のようなエピソードを話したのです。

「自分がジェットパイロットであった時、夜間飛行訓練の最中に計器が故障して突然コックピットが停電して真っ暗になってしまった。高度計も進路計も水平かどうかを表す計器もすべてが見えなくなってしまった。燃料もあまり残っていない。しかし不思議なことに、闇に目が慣れてくると、海の上にグリーンのカーペットのような、それまでは見えなかった波間に漂う光る海藻(夜光虫)の光が見えてきて、そこには大きな空母が進んだひとすじの跡が残っていた。それを目印にして無事に空母に生還することができた。もし停電しなかったらそのような弱い光は見えてこなかったであろう。」

これは印象に残るエピソードです。闇の中に、明るい時には見えなかったものが闇の中で見えてくる。それは私たちのしばしば経験するところです。最初は真っ暗闇だと思ったところに、目が慣れてくると、様々なものが見えてくることがある。闇が深ければ深いほど、小さな光が明るく照らしていることに気づく。耳を澄ますと、聞こえてくる歌声がある。クリスマスに与えられたみ子の誕生を告げる星の光は、迷い続けている私たちを導くための、闇に輝き続ける灯台のような光であるのかもしれません。「光は闇の中で輝いている。闇はこれに勝たなかった」(ヨハネ1:5、口語訳)と書かれていますが、クリスマスの光は私たちの闇の中に確かに輝き続けているのです。

 21世紀最初のクリスマスを迎えて

21世紀の最初の年、2001年も余すところ一週間となりました。今回は21世紀の最初のクリスマスということになります。この一年を振り返ってみるとき、それは私たちにとってどのような一年であったでしょうか。

9月11日の米国での悲しい出来事は私たちの心を引き裂きました。ある方にとっては愛する者との悲しい別離を経験しなければならない年であったかもしれません。また、ある方にとっては思わぬ病いや事故に苦しめられた年であったかもしれない。看病に明け暮れた一年だったとおっしゃる方もおられるでしょう。この不況の中でどうやって年をこしたらよいか途方に暮れておられる方もいるかもしれない。あるいは、ある方にとっては夫婦や親子関係や、職場の人間関係がうまくいかずに、苦しみ抜いた一年だったかもしれません。闇の中でまったく光を見出せない辛いトンネルのような一年であったかもしれません。

しかし闇の中に、もしかしたらそれは小さな小さな光かもしれませんが、光は確かに輝いている。クリスマスは私たちにそう告げています。絶体絶命の状況の中で、救い主の誕生を告げる星が輝いている。そして心の耳を澄ませば天使たちの歌声が響いているのが聞こえてくる。 ♪『いと高きところには栄光、神にあれ、地には平和、御心に適う人にあれ。』♪†

 「光あれ!」

天地創造の初めに、神は「光あれ」と宣言されました。すると光があったのです。この光は闇の中で私たちを照らす光でした。ヨハネ福音書は次のように述べています。「(1)初めに言があった。言は神と共にあった。言は神であった。(2)この言は、初めに神と共にあった。(3)万物は言によって成った。成ったもので、言によらずに成ったものは何一つなかった。(4)言の内に命があった。命は人間を照らす光であった。(5)光は暗闇の中で輝いている。暗闇は光を理解しなかった。」

これは、どのような闇の中にあっても消えることのない光としてイエス・キリストという宝が贈り与えられたことが語られています。ここに私たちの喜びがあり、慰めがあり、希望がある。天使たちの喜びの歌声は、そのような光の到来を宣言しているのです。耳を澄ませ、心を澄ませて、この歌声に唱和してゆきたいと思います。お一人おひとりの上に、神さまの恵みが豊かにありますように。

「(10)天使は言った。『恐れるな。わたしは、民全体に与えられる大きな喜びを告げる。(11)今日ダビデの町で、あなたがたのために救い主がお生まれになった。この方こそ主メシアである。(12)あなたがたは、布にくるまって飼い葉桶の中に寝ている乳飲み子を見つけるであろう。これがあなたがたへのしるしである。』(13)すると、突然、この天使に天の大軍が加わり、神を賛美して言った。(14)『いと高きところには栄光、神にあれ、地には平和、御心に適う人にあれ。』」 メリークリスマス!

 おわりの祝福

人知ではとうてい測り知ることのできない神の平安が、あなたがたの心と思いとを、キリスト・イエスにあって守るように。 アーメン。

(2001年12月24日 クリスマスイブ音楽礼拝 説教)