上橋 奈穂子著『鹿の王』   野上 きよみ

宣伝文句に「謎の病をめぐる壮大なファンタジーであると共に、ウィルスと人体の関係を探る医療サスペンスの物語」とあった。

上下巻千頁以上あり、架空の国や時代、何回読んでも憶えられない登場人物の名等、わけわからなくなり、途中で放棄したくなった。この作者は、一体何者?スマホでゲームに熱中している若者かしら?ところが4月中旬頃「本屋大賞」を受賞されたと云う事で作者をテレビで拝見した。びっくりした。普通の中年のおばさんである。(実は文化人類学者であり、童話作家でアンデルセン賞も受賞された立派な方であった。)もう一度気を取り直して読み進む事にした。

まず筋書きは、強大な帝国東乎瑠(ツオル)に飲み込まれていく故郷を守るため、戦いを繰り広げる戦士団(独角=とっかく)の頭であったヴァンと、同じ頃移住民だけが罹かると噂される病気が広がる王幡(オウハン)領の医師ホッサル、この男二人が主人公である。この二人を軸に多民族の助け合いとせめぎ合い、病気と人とのかかわり、西洋医学と東洋医学の対比、等々含みながら、愛する人々、この地に生きる人々を救うため、もがく事こそが、生きると云う事だと、根本的きびしさをつきつけられる物語であった。感想文を書きながら、頭の中はグチャグチャ。

多分、これを読んでいる人も「これは何じゃ」と思われるだろう。でもこのおとぎ噺は、理屈を越えて、一体結末はどうなるのかと、ワクワクさせられ、最後まで読まされる力がある本であった。一読してみる価値ありである。貴方の脳みその若さや柔らかさを測る事が、出来るかも!

むさしの便り 5月号