約百万人の人が行列して購入したという。この読書会では『ノールウェイの森』『海辺のカフカ』に次ぐ村上作品は三冊目。今回が一番読みやすかった。
舞台は名古屋の高校生五人がボランティア活動をきっかけに親密なグループであり続ける。主人公のつくる以外は、成績抜群の赤松、ラグビー部の青海、ピアノがうまい白根、愛嬌のある黒埜と名前に色が含まれていた。
東京の大学へ進学したつくるは、大学二年の夏、突然きっぱり四人に「顔をあわせたくない。口もききたくない」と妥協の余地のない通告を受ける。理由は何ひとつわからず、彼はあえて尋ねなかった。それから六ヶ月彼は死ぬことだけを考えて生きる。自殺を試みなかったのは、死への想いが純粋で強烈すぎ手段が見つけられなかったからだ。やがて死の淵から脱却しつくるは生まれ変わっていた。
十六年後つくるは駅舎を設計管理する会社に勤務。二才年上の紗羅と知り合う。彼女から「大人になった今、高校時代のダメージを乗り越える時期ではないの。拒絶された理由を自身の手で明らかにしてもいいんじゃないの」と言われ、四人の友達に会う旅に出る。
トップセールスマンになっているアオ、自己啓発セミナーを主催しているアカ、ピアノ教師のシロはすでに亡くなっており、フィンランドに嫁いだクロに会い決別された理由が判明する。その報告をすべく紗羅を待っている所でこの物語は終わるが、つくるの巡礼の旅はまだまだ続く予感を残している。
作者は「人の心と人の心は調和だけで結びついているのではない。むしろ傷と傷によって深く結びついている。痛みと痛みによって、脆さと脆さによって繋がっている。痛切な喪失を通り抜けない受容はない。それが真の調和の根底にあるものだ。」と述べているが、これがこの物語の主題かと思えた。
リストの「巡礼の年」のメロディーが効果的に作品の中に流れていた。
むさしの教会だより 2013年9月号