2. 日本の風土 河野 通祐




むさしの教会を設計してくださった河野通祐兄が、月報むさしのだよりに6回に分けて書いてくださった貴重な記事を以下に掲載いたします。会堂建築に関心のある方は必見です。




 むさしの教会の建築は木造建築です。木造だから日本建築であるとは言えませんが木造建築は日本という地域に定着し、独特な扱い方をして、独特な日本の木造建築を創りあげました。

 何故日本で木造建築が発達し、独特な木の扱い方をして、世界的にすばらしい建築を生んだのでしょうか。そこに木があったから、と言ってしまえばそれまでですが、その木が日本の風土の中で育った木であったからと思います。そして、その風土が、そこに住み、生活の営みを持った人々に思考の仕方を根づかせ、木と人間の交わり方に独特なものを創りだしたからではないかと思うのです。

 その一つは、木が豊富にあったということでしょう。日本の地形や土質など、気候風土が木の生育に良い環境をつくり森や林をつくり育ててきたことです。そして、この森林におおわれた地域に住んだ人々は木とともにある生活を通して習慣を育み、その習慣はやがてその地域の人々の思考の仕方を培い、人間性を築く結果をもたらしました。

 日本の建築が木造に特徴づけられると言われますのは、まさにこのような風土があったからだと思うのです。

 第二に、日本という地域が災害の多い地域であったということです。自然の営みである災害を謙虚に受け止め、それをおそれ人間のなす業の無力さを自覚した人間が、自然に抵抗する構造をさけて、建築に加わる自然の力を分散させる、いわゆる免震構造ともいわれる軟構造を考え出し、木の性質を理解した木組みという日本独特の木構造を創造しました。さらに、自然の中で調和を図ろうとする謙虚な考えは、木が持っている自然の肌をそのまま生かすデザインを創作し、外気に直接木を見せ、気候の条件によって行われる、木の呼吸を止めない真壁(しんかべ)造りや荒木田の土壁、その他いろいろな工法を考え出し、通風や防湿、防暑、防寒など自然現象に対する対応策を考え出しました。

 最近日本基督教団から出版された『教会建築』という美しい本があります。岸先生も推薦の言葉を述べられていますが、この本は単なる建築専門の書ではなく、キリスト教の思想と建築を結ぶ内面的なものを認識することが出来るとともに、建築が内なるものの外なるものへの証しであることが理解出来る立派な本なのですが、その中で建築家の岩井要さんが「福音ルーテル武蔵野教会は、日本の木造建築の特徴である真壁造りや化粧たる木をたくみに用い、無双窓にガラスを併用するなど、新しい工夫が試みられている」と書いていられます。

 日本の木造建築をこのような外観にあらわれたもので特徴づけることはできませんが、たしかにむさしの教会の建築を設計するにあたって、日本の木造建築をつくることを意識しました。それは、日本という思考形態の異なった地域で受け入れられるキリスト教と教会の働き、そしてその生活拠点となる建築との相関についての試みとして建築を考えようと思ったからです。この試みは羽村教会の設計に考え続けてきたものでした。

 しかし、なにぶんにも三十年も前のことですから、戦時中伐採されつくされた日本の山々には、建材として使える木も少なく、外国から輸入するにもその頃の経済が許さなかった頃ですから、私が求めたような日本の木造建築など、先ず、予算の面から考えても出来ませんでした。それが『むさしの教会とシンボル』の中で青山先生がいわれた「日本的な貧しい予算と資材にしばられたきわめて実用的な建築物」となったのです。

 しかし、いくら貧しい予算であったとはいえ、決して貧しい建築になったとは思いません。それは新制作派の彫刻家、山本常一さんが私と同じ想いで協力してくださったからです。その他今は故人になられた、音楽家の木岡英三郎さんや家具設計者の熊井七郎さん、それにパウル・ジョンセン先生など多くの方々の協力が経済的な貧しさの中にも豊かなものを内に秘め今日のむさしの教会の建築を創りあげることが出来たのです。