1. タイムカプセル 河野 通祐




むさしの教会を設計してくださった河野通祐兄が、月報むさしのだよりに6回に分けて書いてくださった貴重な記事を以下に掲載いたします。会堂建築に関心のある方は必見です。




 どなたでしたか、受洗された時の御挨拶で「床下に宝物があるというので小さい頃床下にもぐって探したことがありました」と想い出を話されたことがありました。そういえば、コンクリートの基礎面にある床下換気孔の金網がこわされていて気になっていました。床が高いので、床下にもぐって遊んでいるうちに床を支えている束石がゆるんだり、束と束をつないでいる根がらみぬきという板がはづされたりして床が沈んだりしないかと心配したからです。それよりも、うっかり床下で火を使われて思わぬ事故になることが一番心配だったのです。

 ところで宝物ですが、確かにコンクリートの基礎の中に埋めてあります。玄関に入る前のポーチの左側の基礎面に「キリストは隅の首石なり」と記された石がはめ込んであります。宝物はその裏側、つまり床下のコンクリートの基礎の中に埋められてあるのです。それは銅板でつくった密閉した箱なのです。

 その箱の中には、礼拝堂がつくられた頃の教会の姿を示す教会員の名簿、週報、聖書、讃美歌、礼拝式文など。また、その頃の日本の社会の様子が記されている新聞。それにその頃流通していた少額の貨幣や紙幣。この建築をつくった建築会社や職人の方々の名簿、設計図などがはいっているのです。この宝物はコンクリートをこわさないかぎり見ることは出来ませんが、その中身を知っているのは神様以外では青山先生と私と亡くなった森川鞠四郎さんだけだったと思います。

 この風習はヨーロッパから伝わって来たもので基礎にはめ込んだ石は石造建築の礎石で隅に置かれる重要な石なのです。ヨブ記やイザヤ書には「隅の石」と記され、詩編には「隅のかしら石」と記されています。

 むさしの教会の礼拝堂は木造建築ですから、この石に石造の場合のような役目はありませんが、その思想を形で残そうと思って建築の重要な場所である玄関脇の基礎に取り付けたのです。

 むさしの教会の建築には、この他いろいろ意味を持ったものが沢山あります。その全部を言いつくすことが出来るかどうかわかりませんが、思い出すままにしるして教会員の方々に知っていただき、後に伝えていただくことが建築家としての私の責任でもあるように思い、この紙面を借りることにいたしました。

 青山先生は、『むさしの教会とシンボル』で、この教会建築について、「様式は乗り越えて、日本的な、貧しい予算と資材にしばられた、極めて実用的な建築物」と言っておられますが、それは日本という風土に根ざした教会建築を創造しようとしたキリスト者としての貧しいながらも精一杯の試みだったのです。今から30年前のことでした。