「読書会ノート」 中野孝次 『清貧の思想』 草思社

 中野孝次 『清貧の思想』 草思社

感想ノートより

 

日本文化の一側面を書き記した本である。内容は、大体日本の古典(西行、兼好、光悦、芭蕉、池大雅、良寛等)を引きながら日本には、物作りとか、金儲けとか、現世の富貴や栄達を追求する者ばかりでなく、それ以外にひたすら心の世界を重んじる文化の伝統がある事を表現した本である。と、著者は前書きで述べている。

「なんだか、戦前の修身の本を読んでいる様で、心に響くものがない」
「古文の勉強をしているみたいで、体がこわばって来た」
と読書会のメンバーには不評。一方「毎日曜に、こうして教会に集い礼拝を守る群れこそ、清貧の徒だと思う」とうれしい意見も出た。以下読書ノートよりの抜粋。

☆戦後アメリカに追いつけと豊かさに奔走し最後にバブルがはじけて、日本人の心の中も価値観の方向性が分らなくなった。その答えを期待したが、この本にははっきり書いてないが、所有欲から離れ自由な気持にたち返り、自分を見つめ、新しい価値を日本人が作りかえていくべきと思った。

☆生と死をわきまえた上で自由を昔の文人達は、追求したのではないか。物にとらわれないで、雅を楽しむ心。それは色々な生き方の中で、これから老いを迎える私達が追い求めるものだろう。

☆Simple Lifeのすすめに同感。

☆戦前、戦中、戦後を見てきた世代として、「もったいない」「ものころし」と言う言葉のリバイバルを提唱されているのは嬉しい。

☆to have からto be へ。所有する事から存在する事そのものを大切にしていく生への転換が求められていようが、一体それは何の力によって可能であるのか。自分を越えたものに対する深い畏敬の念なのではないか、そのあたりの分析が課題として、読む者に投げ返されているのであろうか。

(99年10月号)