〜読書会から〜  村田沙耶香著 『コンビニ人間』 廣幸 朝子

子どもたちが公園で小鳥の死骸を見つける。子供たちが口々に「かわいそう」「穴を掘って埋めてあげよう」「お墓をつくろう」と言っているとき「私」は「これ、食べよう」と言って周りをぎょっとさせる。彼女にしてみればニワトリを殺して焼き鳥にするのだから、せっかく死んでいる鳥をなぜ食べないのか、と思う。そしてみんなが、かわいそうに、と言いながら、咲いている花をちぎってお墓にいれるのがもっと不思議に思えるのだ。それなりに考えて彼女なりに理由があるのに、それはしばしば、普通ではない、常識がないと批判され、途惑うばかり。他者とのかかわりに困難を抱えながら成長し、やっと見つけたコンビニのアルバイトに初めて自分の居場所を得る。そこでは、一から十までマニュアルがあり、自己の裁量など一切無用。それが彼女にはありがたい。決められた通りに動いていれば褒められる、給料がもらえてなんとか社会の歯車の一つになれた。

文章は平易で、話の展開も軽快。コンビニの店員さんも結構大変なんだなと、気楽に読んでいると、気が付くとまわりにはひたひたと闇が迫っている。皆の読後感も、「不安」「不気味」「閉塞感」「息苦しい」等々。得体の知れない同調圧力とか、異質なものへの不寛容とか、そんな社会を誰も望んではいないだろう。作者が声高に叫んでいるわけではないが、限られた生を生きる人間同士、もっとやさしく、もっと自由に生きられないものか。

折しも米国では、分断と憎悪を煽ってトランプ氏が大統領にえらばれた。欧州では移民排斥の動きが広がり、日本でもヘイトスピーチが街を練り歩く。私たちの世界はよりよい方向に向かえるのだろうか。

むさしの便り12月号より