編集室から

エディンバラから車で2日かけて辿り着いたネス湖は、雨に煙る静かな湖であった。その水は運河を経てネス川へ、その後北海へと注ぐ。湖の静寂とは打って変わって、河口の街インヴァネスを滔々と流れるその様は、怪物がいても不思議はないほどの激しさであった。

怪物、いわゆるネッシーの最初の目撃は、565年アイルランドの修道僧コルンバ(521-97) によるとされる。場所はネス湖ではなくネス川であったというが、ともあれ、怪物のいる辺境の地での先住民ピクト族への伝道は、どれほどの苦難を伴う仕事であったろうか。彼はアイルランドを追われ、小さな島アイオナに修道院を建て、そこを基にスコットランドに渡る。ローマ教皇グレゴリウスが、アングロ・サクソン族の王国が成立していたイングランドに使節を送る、ほぼ半世紀前のことである。

この地に円環を組み合わせた十字架が多く見られるのは、ローマ教会以前にケルト教会が入ったからであろう。先の独立運動に湧いた人々の心には、青に白十字の旗にもまして、あの十字架が深く埋もれているような気もする。アイルランドの守護聖人の一人であるコルンバは、スコットランドの守護聖人でもある。(ふ)