教会と歴史(5) 石居 正己




むさしの教会元牧師、ルーテル学院大学・神学校元教授(教義学、キリスト教倫理)の石居正己牧師による受洗後教育講座です。




 (承前)民俗学で有名な柳田国男さんと歴史学者の家永三郎さんとが対談された記録がありますが、家永先生は歴史家ですから、文書の資料になっていないと、取り上げるわけにいかないという。柳田先生は民俗学の立場から、そんなことはない、書かれていない歴史があると言う。それは人々の生活習慣や、どういうお祭があるとか、どういう時にどういう歌を歌うか、踊るか、といったことから読み取らなくてはならないということになるのです。それらの事は、その人たちに伝えられた歴史だというのです。ですから、政治支配で歴史の色分けをするだけでなく、その下に生きた庶民の歴史を見なくてはならない。その歴史は区分ではなくて、むしろ時代時代が重なって伝えられています。

 教会の場合もある意味で同じような側面をもっています。教会の政治や神学思想の歴史というだけでなく、実際の信徒の信仰の歴史を見なくてはならない。その大事な歴史の堆積が、私たちに身近かな礼拝や讃美の中にも伝えられているのです。私たちの教会の建物は何十年かしか経っていなくても、私たちが守っている礼拝の中には、実は見てごらん、これは2千年前のあるいは旧約時代の3千年前の柱です、ここに掛けられたものは千年前のものです、といったものが実に沢山あるのです。(続く)

(1995年 9月)