イチジク(無花果)   石垣 通子

 原産地アジア西部で紀元前2000年にはすでに栽培され、パレスチナでは年2回食べる事が出来た。

 旧新約を通じて50回以上出て来る。ブドウと共に重要な果樹であったようであり、まず創世記3章にアダムとエバがイチジクの葉を腰に巻いた話が出て来る。そしてイスラエル民族がモーセと共にエジプト脱出後、シナイの荒野をさまよった時、イチジクその他に飢えを救われた話(申命記8章)。

 果実は生食してよし、乾燥させて保存食料となり、木は四方に枝を張るので暑さを避ける絶好の木陰を提供してくれる。

 これほどに食料として重要な位置を占めているので、その木の下にいるということは安心である(列王記上4:25)。

 植物一般に言えることだが、葉が茂りすぎると実がならない。果樹の剪定は思い切って行う必要がある。又肥料のやりすぎは葉が茂りすぎる原因になる。(ルカ13:6~9)

 食料だけでなく薬用ともなるイチジクには強力なタンパク質分解酵素が含まれている。生体には働かないが化膿したり、カサブタなどになった所は、たちまちとかしてしまう(列王記下20:7)。

 少し専門的になるが、イチジクは昆虫によって受粉する虫媒花で、丈は5m~10mになる。最初に記したように創世記から出て来るので、エデンの園にあった知識の木はリンゴとする説と中にはイチジクとする学者もある。

 又聖書には「イチジク桑」も出て来る。これはアフリカ東部原産で、丈は15mに達する。イチジクに比べて果実は小さいが、数はずっと多い。そして太い幹に直接につく。葉と果実の点で区別出来るが、傷をつけると白い汁が出ることは両者に共通した性質である。またイチジク桑は、根元の幹はねじれて枝が沢山出るので、登りやすい木である。ザアカイでも登ることが出来たのが理解出来る(ルカ19:4)。

 材木としては質はよくないが、軟らかくて加工しやすいのと防腐性があるので用途は広く、低地に栽培され、エジプトではミイラのための棺に利用された。

イエスはエリコに入り、町を通っておられた。そこにザアカイという人がいた。この人は徴税人の頭で、金持ちであった。イエスがどんな人か見ようとしたが、背が低かったので、群衆に遮られて見ることができなかった。それで、イエスを見るために、走って先回りしイチジク桑の木に登った。(ルカ19:1-4)

(1994年 8月号)