「読書会ノート」 石原慎太郎 『弟』 幻冬舎

石原慎太郎 『弟』

幻冬舎
あの裕次郎が亡くなって、数年が経過した。兄の慎太郎が弟との思い出を綴った本である。「おーい裕さん、それでお前は今、どこで何をしてるんだ」と言う書き出しだ。幼年期の小樽時代のいたずらのエピソード。湘南の海でヨットに親しんだ少年期。そして高校時代の放蕩の季節。兄の書いた「太陽の季節」の映画化により、映画俳優として、時代の寵児となっていく過程。その陰で大怪我、病いとの闘い。五社協定に反撥しての映画作り。

大病後、テレビドラマで復活、時代が求めている「ボス」の役を演じる様になり、やがて癌に倒れる。これらを兄弟との関わりを中心に書いているが、どうも裕次郎の実態が、うまく描けていない様に思える。そこで、我が読書会での辛口批評。

「芥川賞を取って、三十年余りたっても、これぐらいの文章しか書けないのかしら。」
「これは、彼が書いたのではなく、ゴーストライターが書いたのではないか」
「これは私小説でもなく、きちんとした伝記でもない。都会の良いことしか書いてない」と。

それにしても、この兄弟は、なんて仲が良いのだろう。世の中には年令の近い兄弟のライバル意識むき出しの葛藤を、よく耳にするが…。読書会のメンバーの中にも、二人の兄弟の親としてのむつかしさ、自分自身が、兄弟の一人として、非常に苦しかった経験を話され、人の心のむつかしさ、複雑さに考えさせられた。

最後に、面白い意見が出た。「僕は、むしろ裕次郎より、湘南の明るさがある加山雄三の方が好きだなあ。裕次郎には哲学がないよ。」「加山雄三より裕次郎の方が良いわよね。」と一人をのぞいて女性群。大柴先生は「私はどちらもあまり良く知りませんので」と、牧会的配慮。エレガントな大正の文学少女だった方は、あきれはてて目を白黒。格調高い読書会も、一ときミーハー的気分になった。みなさんは、どちら派? (K.N.)