たより巻頭言「命の輝き」 大柴 譲治

「わが恩恵なんじに足れり」 (2コリント12:9、文語訳)

 読書の秋。ある方から阿南慈子(あなみいつこ)さんというカトリックの方の書かれた『神様への手紙~命をそっと両手につつんで』(PHP出版)という本をいただく。多発性硬化症(MS)という難病の中で作者の命は輝いている。それを支える家族やボランティアの姿にも心打たれる。彼女は神の恵みを歌う。

  「何より病のもたらすものは
   生きるというより生かされてある日々
   自分の弱さと小ささの認識
   絶えず注がれる神の篤いまなざし」


 しばらく前に読んだ『モリー先生との火曜日』(ミッチ・アルボム、NHK出版)の主人公モリー・シュワルツ氏もまた、難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)を真正面から受け止め、最後までユーモアと対話を忘れずに生き抜く。モリー先生は言う。「悲しむことには癒しの力があります。あなたもその力を見つけてください」と。

 私たちは限界状況で初めて自分の本当の姿が分かるのだろう。自分がもし同じような状況に置かれたらどのような生き方ができるか。そのようにしっかりと自分をもって生き抜くことができるだろうか。全く自信がない。ジタバタする以外にない情けない自分の姿を想像する。

 しかし、そのような私にも「汝よ」と向こう側から呼びかけてくださるお方がいる。個々の「我と汝」の出会いの延長線上には決して「それ」になることのない「永遠の汝」がおられる(ブーバー)。病いの時にも健康な時にも、私に向かって呼びかけてくださるお方。このお方との関係の中に、私は与えられた「今」を大切に生きることができる。

 それにしても私たちは「行為 Doing」ばかりに囚われて「存在 Being」そのもの、命そのものの価値をいかに簡単に忘れてしまうことか。忘れていたものを思い出させてくれる本と出会う。これまた読書の楽しみなり。