たより巻頭言「旅の途上にて」 大柴 譲治

「東方で見た星が先立って進み、ついに幼子のいる場所の上に止まった。学者たちはその星を見て喜びにあふれた。家に入ってみると、幼子は母マリアと共におられた。彼らはひれ伏して幼子を拝み、宝の箱を開けて、黄金、乳香、没薬を贈り物として献げた」(マタイ2:9-11)。 

 人生はしばしば旅にたとえられる。旅の楽しみは何も目的地に到達することだけではない。むしろ、旅の一コマ一コマの情景を楽しむこと、一つ一つの出会いを味わうこと、これが旅の味わい深いところである。旅においてはプロセスが大切なのだ。人生においても同様であろう。私たちの究極的な目的地は神さまの約束の地であるにせよ、そこに到達するまでの日々の歩みが大切である。瞬間瞬間の一期一会の出会いこそかけがえない。「一期一会」とは英語ではこう訳される。”Treasure every moment, for it never recurs.”(一瞬一瞬を大切にせよ、それは二度と戻らないのだから。)

 ラテン語には carpe diem という言葉がある。ロビン・ウィリアムス主演の映画『今を生きる Dead Poets Society』(1989)に登場する言葉だが、「この時をつかめ」という意味だ。今を大切に生きること、プロセスを大切に味わうこと。ラテン語版の「一期一会」である。人生が旅であるとするならば、目的地を闇雲に目指すのではなく、そのような旅の途上を味わうあり方をもう一度覚えたいと思う。

 教会の暦ではアドベント(待降節)を迎えた。クリスマスの前の四週間、主の来臨を迎えるための準備の時である。礼拝で用いられる典礼色は「紫」。それは高貴な王の色であり、悔い改めをも意味している。自ら襟を正しつつ主のご降誕とご来臨を待ち望みたい。東方からの博士同様、星の輝きによって私たちの人生は導かれてゆく。それは主のみ国への巡礼の旅でもある。み子なるキリストが共に歩んでくださる旅である。

 今年は20世紀最後のクリスマス。神さまから私たちに与えられた一つ一つの旅のプロセスをご一緒に味わいたい。神の子すべての者の上にメリークリスマス!