「お仕事よ、こんにちは」      石田 順朗    

10数年に及ぶ2度目の海外出向を終えて帰国(平成6年)、長年続けていた早朝のジョギングで「ハローワーク」を冠する銘版を掲げたオフィス・ビル前を通過した時のこと、目を見張って驚いたのを想い出す。「公共職業安定所」を、法令に関連する部分以外で通称する「ハローワーク」だった! 「職安」、「安定所」は聞き慣れていたが、平成になって早々に約4,000点の全国公募より選定された「ハローワーク」という(平成2年以降の)愛称で、憲法に定める勤労の義務や権利の全国一律平等という要請を行政化する象徴だと知った。
 それにしても、このところ増大するワーキングプアやネットカフェ難民のもたらす課題を抱えながら、派遣切り・雇い止めや、更には労働者が宿舎を追い出されて居所を失うという事態に、民間の「人材バンク」や「転職エージェント」などの勢力拡大も加担している側面があるとも聞く。「ハロー」が(原語のスペルは違い、語呂合わせながら)認知バイアスの一種で、画像処理用語でもある「ハロー効果」に引きずられているのでは、とも危惧される昨今である。
 
 今では、「ハロー!プロジェクト」の略や楽曲名、アルバム名でよく登場する「ハロー」を、私は単純に「こんにちは」「もしもし」の挨拶にしたいと願っている。そもそも職業は、キリスト教用語でいえば、神に召されて新しい使命につくことを意味する「召命」であるからだ。神から「ハロー」と今日も呼びかけられている。召命と邦訳される語源vocatioは、本来、神に選ばれ、呼び出され、救われることで、転じて、牧師(司祭)職として使命を与えられることに始まり、さらに拡大されて(家事専業を含める)職業一般の呼称になった大事な用語である。
 世界中どこでも、失業率の昇降が政治行政への支持率に影響し、就職率は出身校の入学応募率にも結び付く。他方、戦禍に苦悩する国々では、離業や失職どころか難民となって膨大な国外脱出も起っている。身近には、来春を目指して「就活」が激化する秋を迎えた。でも、「極端気象」に覆われた広島の大規模土砂災害、数多の地域での土石流災害に捲き込まれた同胞者たちを思うと心が痛む。
 一日でも早く、みんなと声を合わせて、“お仕事よ、こんにちは”と元気よく挨拶を交したい。

(2014年9月28日 発行)