トーマス・マン著 「魔の山」  今村 芙美子

ハンス・カストルプは、幼児の頃に両親を病気で失い、祖父に育てられ、祖父の死後、大叔父がカストルプ家の財産を管理し、無事青年期を迎えた。時代が空しく沈黙しているせいか、彼は凡庸であった。唯、数学は天分を持っていて、造船のエンジニアになる実習寸前に、3週間のアルプス行きを勧められた。丁度母方のいとこ、ヨーアヒムがサナトリウム「ベルクホーク」に5ヶ月前に療養していたので、ハンスも気楽に入寮した。そこでヨーアヒムから一人の紳士を紹介された。彼、セテムブリーニを自分を、イタリア人、人文主義者と称した。

ハンスは彼に「ベーレンス顧問官の言うとおり、検温を毎日し、バルコニーに毛布にくるまって寝るようにしている」と言ったら、「あー、彼は悪魔の手代だ」とハンスが首をかしげることを言う。サナトリウムの食堂には一同が指定された席で食事が社交的雰囲気でされ、食事の内容も満足するものであった。彼はそこで彼は一人の女性に恋をする。彼が中学生の時憧れた少年に似ていたのだ。キルギス人に似ていて、目が切れ長で細く、この少年に鉛筆を借り、返した時のハスキーな声を聞くことができた。彼の女もそうだった。名前はショーシャ夫人。ハンスは気持ちが高ぶり、手が震え、体温は上がり、ベーレンス顧問の勧めで、2年療養を延ばすことにした。一方セテムブリーニは一番の話し手で、精神的に刺激になり、のんびりしたハンスには兄であり、先生であったが、ハンスのショーシャに夢中なのは了解しなかった。

代診クロコフスキーの講演の時、薄い布団の中の彼の女の美しい腕に見ほれて、ぶ厚い生理学の本を読みあさり、ベーレンス顧問にリンパ液について質問すると、「呼吸と消化によって作られたリンパ液は血液の中を送られ血管壁から細胞へ押し出され、細胞を柔和に洗い、淋巴液が再びリンパ管に戻り、血液の中へ流れ込む」とハンスに説明する。何故ショーシャ夫人の腕は美しいのかから、文学的な生理学書を数10ページも読むとは思わなかった。セテムブリーニはスペインから「社会病理学」の原稿を頼まれ、サナトリウムから少し離れた所に住み、そこでナクタというイエズス会の神学校の教授と知り合う。

一日一回の散歩をハンスはいとことこの二人でしていたが、彼等は論敵で、議論は毎日、沸騰する程で、寡黙なヨーアヒムとおっとり型のハンスを驚かす。ハンスは「鬼ごっこ」と称して、一人だけで雪山を医者に内緒でスキーに出かけ、二人の会話を頭の中で走らせ、吹雪に会い、小さな物置を見つけ、転がるようになって、気を失い、夢を見、愛が一番根底になければならないと、自信を持つことができ、後で、セテムブリーニは「彼、厄介な息子は少し大人になったな」と気がつくのだ。ベーレンスの反対を押し切って入隊したヨーアヒムは少将になった手紙をハンスによこしたと思ったら、サナトリウムに戻ってきた。悲しい再発だった。別れ際に鉛筆を借り、又返しに行ったショーシャ夫人はパートナーを連れ、帰って来て皆を驚かした。カリスマ性のある彼はサナトリウムの人達を釘づけにする程、大らかな王者のような、情に深い人で、ハンスも夢中になったが、病状の悪化で自殺した。ショーシャも打ちのめされ。又サナトリウムを離れた。ナフタはセテムブリーニとの決闘で自分の頭を撃ち、ハンスはこの魔の山、サナトリウムに放置された。

ここで、轟然世界がどよめいた。ベルクホークは低地に崩れ落ちた。不思議なことに、セテムブリーニは横たわり、ハンスは立ち直り、セテムブリーニの「社会病理学」に原稿一巻を完成に手助けした。この若者も第一次世界大戦争に狩り出されタ。弾丸が飛び交う中にハンスは「菩提樹」を歌っている。あっやられたか、顔を泥中に埋めていたが、彼は立ち直った。この恐ろしい業火の中から愛が生まれ出てくるであろうか。

-むさしの教会だより第434号  2011年 11月 20日発行-