「ステンドグラス」




『むさしの教会とシンボル』 文と絵 青山 四郎

(むさしの教会文庫 1980年 4月20日発行)
むさしの教会元牧師の青山四郎牧師による文章です。

「むさしの教会に出入りしておられても、意外に皆さんが御存知ないことが多いのではないか
と思いますので、気付いたことを書きならべてみることにしました。御参考になれば幸いです。」




さて、正面を見て下さい。目を見張るような大きいステンドグラスが、壁一面にはめ込まれています。


ステンドグラスが用いられるようになったのは、ロマネスク時代に教会の窓をかざるようになってからだと言われています。極く初期には、単に色ガラスのモザイクでしたが、それでも素晴らしい光の色彩を会堂いっぱいにあふれさせて、集まってくる人々の心をなごませていました。色としては、赤と青が主で、それに黄を加えて生気を与え、緑を加えて色の調子をやわらげていました。

そのうちに色彩だけでなく、預言者の像や聖者の姿等を描くようになり、ドイツ、フランス、イタリー等にゴシック建築が導入され、大きな教会堂がつぎつぎに建てられるようになる十二、三世紀頃からステンドグラスの黄金時代が始まりました。そして窓に描かれるものは、聖書の物語に題材を求めたものやキリスト教のシンボル等で、会衆にいろいろのことを教える大切な手段にもなりました。
さて、このステンドグラスはどうでしょう。これはアメリカのネブラスカ州のフリーモントにあるルーテル教会が改築することになり、今まで古い会堂にあった古いものを寄贈して下さったものですから、きっとそう古くはない、アメリカ製でしょう。製作技法もデザインも、色彩の使い方もごくありふれた普通のものです。

中央には、大きな「善き羊飼い」の像があります。そもそもこの題材は、四世紀初期のカタコンベの壁画にも描かれていますから、テーマとしては、古いものの一つです。もっとも初期のイエス像には口ひげがなく、上半身は裸の青年として描かれています。ですからこのようにひげを貯えた立派なイエス像は、十三世紀以降に見られるのであって、この羊飼いは極めて近代的な姿だと言えます。

イエスである羊飼いに抱かれたり、まつわりついたりしている羊は、人間を現わしています。もっとはっきり、これは罪人を示すものだと言う人もいます。
向かって左側には、図のような「バラの花」が見えます。バラの花は、シンボルとしては色々の意味があります。例えば、赤いバラは殉教者のしるし、白いバラは純潔を示します。しかしここでは、イエスの御誕生を示しています。イザヤ書35:1に「荒野と、かわいた地とは楽しみ、さばくは喜びて花咲き、サフランのように、さかんに花咲き」とあって、イエスの誕生を預言しています。日本語訳では「サフラン」となっていますが、英訳の聖書ではローズ、つまりバラ、になっています。これがバラなのか、サフランなのか、ユリなのか、学者には議論のあるところです。とにかくこのステンドグラスはアメリカでできたものですから、バラで、クリスマスのシンボルであることは確かです。雅歌2:1には「わたしはシャロンのバラ、谷のユリです」とあります。


右側には、図のような「ザクロ」が見えます。ザクロは、そもそも教会を示すのに用いられました。つまり一つの実の中に、無数の種がつまっていて、お互いにしっかり結びついているからです。しかし昔のギリシャ神話では、ザクロはペルセフォネという冥府の女神を指していました。この女神は、大地の生みの力を司るのだとされていて、冬の間は冥府にじっとしていますが、春になると地上に帰ってきて、自然界に生命をみなぎらせるのだ、と言われていました。これがいつの間にかキリスト教美術に採り入れられて、復活と永生のシンボルとなりました。ですからここでは、イエスの復活を示しています。

左のバラが降誕で、中央が私たち罪人をその愛の胸に抱いて下さる羊飼いイエスの姿、右のザクロで復活を示していますから、この三つで救い主イエス・キリストの全てが描かれているわけです。

更によく見ると、バラの上部にも、ザクロの上部にも「冠」があります。冠は初代教会の時代から、勝利、高貴等のしるしでした。ですから、イエスは誕生の時も王としての栄光を持ち、復活においても勝利の王として神のみ許にのぼられたことを示しています。