教会と歴史(7) 石居 正己



むさしの教会元牧師、ルーテル学院大学・神学校元教授(教義学、キリスト教倫理)の石居正己牧師による受洗後教育講座です。



 (承前)教会讃美歌の499番の譜の左肩作詞者の欄をみて下さると、Apostolic Constitutions, 3rd cent. とあります。これは『使徒教憲』あるいは『使徒憲章』と呼ばれるごく古くからの教会の決まりを集めたものです。だいたい3世紀にまとめられたとされています。長い間の言い伝えでは、これはローマのクレメンスによったものとされました。ローマのクレメンスと言えば一世紀の人で、ローマの二代目、あるいは三代目の司教といわれています。つまりペテロのすぐ次の指導者というわけです。歴史的に正確かどうか疑問ですが、それでも少なくととも3世紀のものとされているのですから、それくらい古い伝承であることは確かです。そしてこの499番の譜の右の肩、作曲者のところには Genevan Psaltar とかいてあります。これは宗教改革時代ですね。ルターとともに改革の主要な流れを形づくったスイスのカルヴァンの教会では、詩篇に曲をつけて歌いました。その詩篇の歌の曲の一つが取られているということを表しています。そうすると、なにげなく歌う499番の讃美歌は歌詞も曲も、たいへんな歴史を背負っているものであるといわねばなりません。(続く)

(1995年12月)