ニッケイ〔肉桂) 池宮 妙子

 「あなたは、最上の香料をとれ。液体の没薬五百シュケル、かおりの強い肉桂その半分ー二百五十シュケル」(出エジプト記30章23節)

 モーセは、神聖な器や司式司祭の人格を幕屋(仮神殿)で聖別するように、主に命ぜられましたが、その時に使う貴重な香油あるいは「聖油」を製造する材料の一つが肉桂でした。

 聖書の中のニッケイはセイロンニッケイで、別名シナモンツリーといわれる種類です。クスノキ、日本のニッケイ、トンキンニッケイ(広東、ベトナム原産)などクスノキ科の仲間で、いずれも光沢の葉が美しく、薬用や香料に用いられています。セイロンニッケイは樹高十メートル以上にはなりません。

 香料の材料は、樹皮や枝から採取します。樹皮の両側に、よく切れるナイフで縦に切り目を入れます。剥がした樹皮は中空の円筒状になります(料理用のスパイスとして見かける形)。最高の品質のシナモンは、セイロン西南部で生育したセイロンニッケイの四~五年生より若木で、その若枝から生産されたもの。聖書時代には、この上質シナモンはフェニキヤ人かアラビヤ人がユダヤに輸入していました。大変高価で、貴重な資源であったことは確かです。実物は、東京の小石川植物園の温室に鉢物があります