「読書会ノート」 日下公人『数年後に起きていること』

 日下公人『数年後に起きていること』(PHP)

川上範夫

 

最近はタイトルで本を売ろうという出版社の意図がみられるが、この本もその類のようだ。著者の日下公人は日本長期信用銀行(長銀)出身のエコノミストで、1980年代、竹村健一、堺屋太一などとテレビで論陣を張っていた。最近その姿を見なくなったが、この本で久し振りに彼の論説に出会った。著者はこの本で経済理論を展開したり、日本経済のマクロ的予測や数年後のこの国の姿を描いているわけではない。自動車、テレビ等の個別産業を中心に日本企業の技術力の優秀性をとりあげ、その背景には日本人の優れた感性があることを力説、日本は最高級品マーケットで生き、米国や中国は中級品を作る、経済的に日本は独走しており、これからは日本の時代である、22世紀には日本語が国際言語になるとのご詫宣である。一方、中国経済の問題点を指摘し、中国経済の発展はもうじき終ると予測している。文中では日本人の感性に関連して一休や良寛の生き方にふれ、又、囲碁や将棋の世界の内情、シンクタンクの実体、マンガやアニメ、ポケモンに至るまで新しい話題を折り込み、この本を読み物として肩のこらないものにしている。

著者の論説に新しい視点は見出せないが、バブル崩壊後、自信喪失に陥った日本人に自信をとり戻させるという意図はうかがえるし、日本悲観論への反論としての日本優位論もそれなりに意味はあるだろう。

併し、この様な論調は今までにも何回か繰り返されてきたように思う。古くは太平洋戦争の前後、近年ではバブル時代に、そして最近再び現れてきたのが日本優位論である。そしてこの本も時代の流れ、つまり「ぷちナショナリズム症候群《にのっているのではないだろうか。私は著者の経済予測に特に関心はないが、長銀の取締役をつとめていた著者が数年後に起きた長銀の破綻を見通せず、その対策もとれなかったことを、私としては忘れるわけにはゆかないのである。

(2007年12月号)