たより巻頭言「千の風の中に」 大柴 譲治

ここは神の世界なれば 野百合も小鳥も神をたたう。
 風にそよぐ草木にすら とうときみ神のみ声を聞く。

           (教会讃美歌382番2節)

「日本人の心を慰めるものに三つあります。水と緑と魚。この三つが不思議なほど日本人の心を深く慰めるのです。それらを備えているのが日本庭園です。苔むした岩の中に心字池があって鯉が泳いでいる。小さな日本庭園をホスピスのベランダに作ると皆さんとても喜ばれました。」これはかつて淀川キリスト病院ホスピス長であられた時の柏木哲夫医師よりお聞きした言葉である。神の創造された自然は、確かに私たちの深い悲しみをも癒す力を持っている。

ある方に『千の風になって』という素敵な本をいただいた。朝日新聞の天声人語にも紹介された本である。作者不詳の英語詩を、芥川賞作家の新井満が日本語に訳して出版したものである(講談社)。

私たちの周囲ではこのところ相次いで天に召される方が続いた。ご遺族の上に慰めとなることを祈りつつ、「千の風」を自由な意訳を交えた拙訳によりご紹介したいと思う。

  「千の風の中に」

わたしの墓の前では涙はいりません。
そこにわたしは眠っていないのですから。

わたしは、駈け抜けてゆく千の風、
粉雪の上のダイアモンドのきらめき、
たわわに実った麦穂を照らす陽光、
優しく降りしきる秋の長雨。

朝の静けさの中にあなたが目覚めるとき
わたしは宙に弧を描いて音もなく舞うアマツバメ。
そして、夜には静かに輝く星になって
あなたのそばにいるのです。

だから、どうかわたしの墓の前で泣かないでください。
わたしはそこにはいないのです。
わたしは死んだわけではないのですから。

お一人おひとりの上に神さまの豊かな守りがありますように。 在主。


(2004年 2月号)