グリーフケアについて(1)〜上智大学グリーフケア研究所  大柴 譲治

これまでのCPE(Clinical Pastoral Education臨床牧会教育)スーパーヴァイザーとしての働きが評価されてのことでしょうか、請われて私はこの4月から「上智大学グリーフケア研究所」に関わっています。2005年4月に起こった尼崎での痛ましいJR福知山線列車脱線事故(107名が死亡)を契機として、JR西日本によって二つの研究所が設置されました。一つは京都大学工学部の中に「安全工学研究所」が、もう一つは聖トマス大学の中に「グリーフケア研究所」です(2010年に聖トマス大学は上智大学と合同しましたのでグリーフケア研究所も上智大学の中に移されました)。それ以外にもJR西日本は「あしなが育英会」や「関西いのちの電話」等にも支援をしてきました。

グリーフケア研究所は現在、聖路加国際病院理事長の日野原重明氏(名誉所長)、カトリックシスターの高木慶子氏(特任所長)、高名な宗教哲学者・島薗進氏(所長)の三人体制で活動しています。

グリーフケア研究所による人材養成の活動は、関西では既に窪寺俊之先生(現聖学院大学大学院教授)らを中心に2007年から先行して行われていましたが、東京では2014年から二年をかけて一期生24名のGCの専門職を養成するコースとしてこの4月に始められたばかりです。これから歴史が新たに作られてゆくことになります。ほぼ2倍の応募倍率を突破して集まった24名の社会人たちは、看護師やソーシャルワーカー、臨床心理士、緩和ケア医、ケアマネージャーや教師など、対人援助職に関わる者たちが少なくありません。

人材養成の基本は米国で病院チャプレン等を養成するCPE(臨床牧会教育)に準拠しています。初年度に訓練生たち24名は、水曜日の夜と土曜日の午前に座学(講義)、土曜日の午後にグループワークの演習に参加することを通して、「ケアされることを通してケアすることを学ぶ」という体験を積み重ねています。そして春と夏には6人ずつに分かれてそれぞれ一週間、四つの病院で集中実習を行うことになっています。

演習スーパーヴァイザーとしては聖公会、ルーテル、浄土真宗などエキュメニカルな背景を持つ四人が担当し、秋からは補佐のため二人の女性が加わりました。現在は「共感的な受容と傾聴」訓練の一貫として、「私の死生観」や「生育歴」というテーマで、自己自身の内面を深く見つめつつ、感情に焦点を合わせながら、8人ずつ三つのグループに分かれてグループワークを行っています。

私自身は2004年からルーテル神学校のCPE(臨床牧会教育。牧師になるための必修コース)に白井幸子先生と共にスーパーヴァイザーとして関わってきましたが、コツコツと培ってきた専門性が「時代の要請」の中でこのような公的なかたちで生かせることに不思議な喜びを感じています。特に3.11東日本大震災以降は「悲しみに寄り添う」ことの重要性が広く認識されてきましたが、その中にあって宗教者・信仰者の持つ役割は決して小さくないと思われます。そのことは、例えば2007年の「日本スピリチュアルケア学会」の立ち上げや、2011年からの東北大学における「臨床宗教師の養成」などを見ても明らかでしょう。

グリーフケア研究所での働きは日本スピリチュアルケア学会の傘の中にも位置づけられています(ここにはルーテルからは他に伊藤文雄牧師、立野泰博牧師の名前が見受けられました)。「喜ぶ者と共に喜び、泣く者と共に泣きなさい」(ローマ12:15)とパウロは語りますが、この時代の「新しいケアリングコミュニティの形成」という大きな動きの中に、今も働いておられるキリストのご臨在を感じながら関わらせていただいています。皆さまにも祈りにお覚えいただければ幸いです。