『穴』 小山田 浩子 著     野上 きよみ

「事実は小説より奇なり」というが、近年「ストーカーの被害」「航空機の爆破」「児童虐待」等と刺激的な事件にこと欠かない。その様な中「第150回芥川賞」は小山田浩子著『穴』が受賞した。
 内容は大事件が起きるのでもなく、平凡な日常が淡々と書かれている。
 地方都市に住む一主婦が、夫の転勤に伴い夫の実家に住むことになる。「携帯電話依存症の夫」「嫁・姑の関係」「隣人の奥さんの存在」「引きこもりの義兄のいることを初めて知ること」「やや痴呆のある夫の祖父の行動、死そして葬儀の際の地域の人々の関わり方」等に一見無秩序に見える日常生活が高度な技術で巧みに構築されており、「一体何が言いたいの」と思いつつ一気に最後まで読まされた。
 作者は広島に生まれ広島から出たことがないとの事で、舞台はコンビニが一軒しかなく、太田川の源流(?)の川がゆったり流れる県北の町の様に想像される。その河原にある穴に得体の知れない小動物を追っかけ落ちたりしているが、タイトルの「穴」は何を象徴しているのか明らかにされず、読者に委ねている作者の強い意志を感じた。
 今後の作品が楽しみである。

(2014年9月号)