林 真理子 著『正妻』 仲吉 智子

最後の将軍徳川慶喜とその妻の物語で、上巻下巻で547頁。若い読者のために上巻では「公家」とは何モノという説明に多くの頁をさき、一口に公家といっても、格付けがあり、慶喜の妻となる美智子は公家の生まれではありますが、格の上である一条家の養女となり、名前も延から美智子君と変えて武家である徳川家に嫁入りすることになります。

 慶喜と妻美智子夫婦の物語と何度も申しますが、二人をとりまく人々の話に飛び飛びしながら、また、私共の知るところの歴史的な出来事に話が移ったりしますので、二人の存在がとても希薄に感じられます。主人公である美智子君の波乱万丈といえる人生が淡々と語られていきます。まるでテレビのワイドショー番組を見ているようだと感想を述べる方もいました。

 自分の意志をしっかりと持った個性的で魅力的な女性ですが、正妻として子に恵まれず、最後は乳癌となり、慶喜より先に亡くなりますが、こうした病になっても慶喜は正妻美智子君に対して「そなたはわしより先に死んではならぬのだ。妻とはそういうものだ。」と申します。美智子にとっては、はからずも聞いた夫の情の深さを感じる言葉となり、その頃にしては珍しい手術を受ける決心をするのです。

 夫婦の絆は人それぞれですが、何十人もの子を持つ慶喜の一言が妻の心に愛を届けることになったようです。

 二月四日の朝日新聞に「京都の私塾跡から重文級資料数百点」とあり岩倉具視に宛てた慶喜の直筆書状もあり「慶喜一身」が罰を被り「無罪・生民」が苦しみを免れるように江戸攻撃の中止を求める内容で直筆が見つかるのは初めて。とありました。

 この資料がもっと早く出ていたら、慶喜ももう少し男らしくよく書かれていたかもしれません。

〜読書会から〜 むさしの教会だより 5月号(499号)より