編集後記 「春の予感」 秋田 淳子

厳しい冷え込み。大雪の真白な世界。

11年前に私の父は他界しました。父が使っていた物、遺した物などをようやく今、ゆっくりと手にとって見ることができるようになりました。それまでに、10 年の歳月が必要でした。過ぎてしまえばあっと言う間ですが、やはり10年は長い時間の流れです。

父が検査入院してから亡くなるまでの約1ヶ月間の父の様子の変化、緊迫した日々の中での家族の心模様などが、冬の季節を迎える度によみがえってきます。

しかし、その様な中で家族にとって大きな慰めとなったのは、父が自らの意志で病床洗礼を受けたことでした。この時与えられた心の中の平安は、ほんのりと雪の中に見える春の予感に似ています。

神様のなさるひとつひとつに隠された意味は、時の流れと共に私たちの経験の深さによって、はっきりとしてきます。たとえ悲しみや不安という形であってもそこには次の季節に向けて喜びや希望がすでに芽吹いているのです。

(2001年 2月)