「読書会ノート」 向田邦子 『蛇蝎のごとく』

 向田邦子 『蛇蝎のごとく』

野上きよみ

 

小心で真面目なサラリーマン古田が、部下の女子社員と不倫しようとする。その日に、娘が妻子ある男と同棲しようとしている事を知り、動転する。不倫をテーマに家族のあり方、微妙な人間心理を巧みな会話で表現した作品。

出席者は、昭和の時代を男性として女性として親として一生懸命生きて来て、甘いも酸いもわかる男性3名、女性3名。

「蛇蠍とは、へびやさそりの様に、いみ嫌うと言う事だけど、一体誰が蛇蠍なのだろうか」と言う意見があり、結局、人間みんな、蛇蠍の如く人生を送っているのでは・・・と言う事に落ち着く。

作者は、人間観察が鋭く冷静にみているが、そう言う欠点の多い人間が好きで、暖かく生き生きと描いていて、昭和の庶民生活が懐かしく思いかえされた。嬢の不倫相手の石沢の台詞に「理屈に合わないもんなんですよ。人間の気持ちってやつはね。あっちも本当、こっちも本当。」と言うのがある。作者が一番言いたかった事の様に思う。気軽にサラサラと読める短編、ご一読を。そして反論を。

(2001年12月号)