「読書会ノート」 宮本輝『錦繍』

宮本 輝 『錦繍』

野上きよみ

 

今回の出席者は、酸いも甘いも体験して来た(?)ロマンスグレーの男女四名。第一声は「久し振りに小説らしい小説を読みましたね」「本当にそうですね」と云う事。

本著は全文書簡体で書かれており、十数年前に別れた男女が紅葉まっ盛りの蔵王で再会したところから始まる。

往復書簡は一月中旬から十一月中旬に至るまで十四通交わされ結婚前、結婚中、離別後の過去が解きあかされる。そのうち過去を追い抜いて、現在へと転換していく。

離婚直後、家にとじこもっていた主人公、亜紀が久し振りに外出し、喫茶店でモーツァルトの音楽を聴き、「生きている事と死んでいる事はもしかしたら、同じかもしれない」と直観的に思う。

K兄曰く「どうしても、ジュピターを聞いて、そういう気持になるのかわからない。CDを何回も聞いたがわからないなぁー。」

I姉は「亜紀の前夫有馬が、別の女と無理心中に捲きこまれる蔭に亜紀の父親の存在が大きいと思う」

当日出席されたがこの本の推選者G兄は「離別後、亜紀が前向きに力強く生きて行こうとする後に、父親の大きい力を感じる」との事。同じ父親に対するイメージも読み手によって微妙に違う事に気づかされた。

どの登場人物も、我々自身の中に思いあたる部分を内蔵しており、死によってすべてが終わるのでなく、そこから生の姿がはじめて鮮やかに照らし出されてくる「命そのもの」を思いしらされる本であった。

(2004年4月号)