むさしのだより「井戸端の戸」 思いがけない優しさ


昨年の暑い夏の朝のこと。私は横断歩道でタクシーを待っていた。日よけのためにつばの広い帽子をかぶり、サングラスをかけて。信号が青に変わると小学2~3年生の男の子が一人、元気よく走って渡ってくる。そして私を見上げて「今渡れますよ」と声をかけてきた。帽子のつばに遮られて信号が見えないのではと気遣ってのことだ、と私が気づくのに2~3秒かかったかもしれない。「ありがとう!ご親切に!気をつけてね!」と何度も叫び声を上げた時にはすでに後ろ姿で、コンビニへ入ろうとするところだった。「タクシーを待っているから」などと云わなくて本当に良かった。抱き締めてもっと充分にお礼を云いたかったのにと後悔し、うるうるしそうになる。

そう云えばこのところ、気遣いのあるその年頃の男の子に会うことが多い。マンションのエレベーターに同乗し1階に着くと小走りで玄関へ行きドアーを開けて私がくるのを待っている。何階ですか?とボタンを押してくれる、等など。殺伐とした事件ばかりが報道される中、思いがけない優しさに出会うことは誠に嬉しい。

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 (たより2005年 4月号)